最近の戸建て住宅、アパートやマンションは、いずれも必要な耐震性を有していると確信しています。現在の建築基準法の求める性能、「数百年に1回発生する地震(震度6強や震度7)でも崩壊や倒壊はしない」を十分に満たしているはずですから。
ただ、「ペットを連れて避難所に行くのは極めて困難」だから「大きな地震の後も自分の家に住み続ける」ためには、必ずしも十分とは言えない場合もあると思います。
建物に高い耐震性能を持たせるための手法はいくつもありますが、こだわったのは、もともとの構造の持つ余裕、「のりしろ」のような部分です。
建物は、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造のいずれも「柱を中心に強度をだす方法」と「壁で強度をだす方法」があります。
伝統的な日本の木造住宅で用いる「軸組み工法」は、柱を中心に強度を出していく「柱式」です。ツーバイフォーといわれる工法は、ほとんど壁だけで強度を出す「壁式」です。軽量鉄骨造は「壁式」に近く、重量鉄骨造は「柱式」です。
ツーバイフォー工法(柱らしい柱はありません) 鉄筋コンクリート造は、どれも同じだと考える人がいるかもしれませんが、これも、柱を中心に強度をだす「ラーメン構造」と、丈夫な壁で強度をだす「壁式構造」があります。一般に、ラーメン構造を「RC造」、壁式を「WRC造」と呼んでいるようです。
どの構造でも、入念な設計と施工があれば十分な強度をだすことは可能ですが、弊社の(個人所有を含みます)3階建て鉄筋コンクリート造賃貸マンション、2階建て木造賃貸戸建て住宅、5階建て鉄筋コンクリート造賃貸マンションには、すべて「壁式」を採用しました。
その背景には、阪神・淡路大震災があります。(阪神・淡路大震災では、建物倒壊率が50パーセントを超える地域がありました。キラーパルスと言われる、比較的周期の長い揺れが原因だったと言われています。この大都市直下型地震を、最悪の場合と想定しました。)
救援に駆け付けた消防隊への補給物資を届けるため、発災から3日目に神戸市に入りました。任務を終え、短い時間でしたが、信じられないような光景のなか、出来るだけ多くの被災した建物を見て回りました。その中で、倒壊した建物は「柱式」の建物ばかりで、「壁式」で倒壊した建物は見つかりませんでした。戸建て住宅でも、アパート、マンションでも同じです。
これを「壁式」は新しい建物に多く、「柱式」は老朽化した建物に多かったと説明するには、大きな違和感が残りました(木造住宅に限れば、この説明がほとんど当てはまったと思います)。
阪神・淡路大震災による建物被害については、様々な検証が報告されていますが、その中の一つ「平成7年 阪神淡路大震災建築震災調査委員会中間報告」に、この違和感を解く記載を見つけました。一部を紹介すると「壁式鉄筋コンクリート構造の被害は一般に小さく、ほとんどが無被害または軽微に属する被災程度である。これは、震度7の地域についても言え、すぐ近くの建物が被災判定上大破や倒壊であっても、壁式鉄筋コンクリート構造にはほとんど被害が見られないといった事例は数多くある」とあります。(同じような記述のあるレポートは他にもあります)
「壁式」にこだわったのはこうした理由です。ただし、繰り返しになりますが、どのような構造でも十分な耐震性を持たせることは可能なはずです。一例ですが、震源地である北淡町にある北淡町震災記念公園には、断層のほとんど真上で巨大な震動に耐えた住宅が、震災メモリアルハウスとして保存されています。この住宅は、ラーメン構造の鉄筋コンクリート造です。
なお、基礎については、どの施工者も入念な地盤調査を行った上で選択しますので、それを確認し、決して品質を落とさないことが重要だと思います。
大切なことは、本来すべての建物がそうあるべきですが、十分な余裕のある耐震性能を持たせるべきだ、ということです。
災害に強い住宅(ライフライン途絶への対応)へ
避難所について 家庭の地震対策については、様々なサイトでたいへん詳しく紹介されていますので、そちらに譲ります。ここでは「避難所」について、私見を含めて少し触れます。 いつの頃からか、地震、即、避難所へ という感覚が強まってきたように感じます。これは、間違いではなくとも、正しいとは言えないと考えています。特に大都市圏にお住まいの方々には、自分の避難所に指定されている施設に、周辺のすべての住民が集まった時のことを想像してみて欲しいと思います。 また、避難所の運営にあたるスタッフのことを考える必要もあります。多くの場合、自治会町内会の役員の方や、役所から緊急参集してきた職員が運営にあたることになると思いますが、特に初期段階で、手薄であることは間違いありません。 行政の負担を軽くして、限られた人的資源を、本当に必要としている人のもとに集中的に投入できるように、出来るだけ多くの人が、役所の世話にはならないというぐらいの覚悟を決め、そのための対策をとっておくことが必要だと思います。そしてこのことが、全体の被害を最小限にとどめるために大いに役立つはずです。 ただし、幸いにして避難所に行く必要がない場合でも、定期的に避難所を訪れ、担当者に今の状況を伝えておくことは必要です。そこで、貴重な情報や必要な物資の提供を受けられることも多いでしょう。 なお、このことは、津波、河川の氾濫、大規模な延焼火災が発生している場合などでは通用しません。一刻も早い避難が必要な場合があることは、言うまでもありません(延焼火災時は広域避難場所へ)。 |